自己紹介 その6

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拳が痛む日が数日続いた。
その痛みは初めての感覚で数日間自分の意識はほとんどその痛みに向けられていたように思う。
やがて時間が経ち拳の痛みが少しずつ和らぐころもっと大きな痛みが心に重くのしかかってきた。
試合に負けたショックもあったがそれ以上に試合を途中で諦め逃げてしまった自分への深い後悔だった。
あの時は戦い続けることができないと思っていた。
しかし終わってみればなぜ逃げずに挑み続けなかったのかそのことばかりが頭をよぎった。
人生を逆転させたいと願いボクシングのリングに立ったはずなのに逃げ出してしまった自分に「やっぱり無理かもしれない」と諦めかけていた。
それでも行き場をなくしてたどり着いたのがボクシングのリングだった以上もう他に逃げる場所はなかった。

拳の怪我が癒えると再びトレーニングを始めもう一度人生逆転をかけてリングに戻る決意を固めた。
「まだ1回負けただけだ。結論を出すには早すぎる」
そう自分に言い聞かせ再起を誓った。

そして迎えたプロ第3戦。
恐怖と不安が渦巻いていたが「やるしかない」と腹をくくり試合に臨んだ。
結果は2ラウンドKO勝ち。
まだまだ荒削りで拙い部分も多かったが全力を尽くし再起戦を勝利で飾ることができた。

これで戦績は2勝1敗。
少しだけ人生逆転への希望がつながった気がした。
次に挑んだ4戦目の相手はデビュー戦で対戦した選手だった。
侮っていたわけではないがデビュー戦で勝利している安心感からどこかで
「また勝てるだろう」と思ってしまっていた。
試合の舞台は拳を痛めて投げ出した試合と同じ仙台の体育館。
勝負は両者特に決めてのないまま4ラウンドまで続き判定で敗北を告げられた。
この時から「後楽園ホール以外では勝てないかもしれない」という苦手意識が頭をもたげ始めた。

だが今回は前回ほど落ち込むことはなかった。
それには理由がある。
過去に敗退した新人王トーナメントに実はもう一度挑戦できると知ったのだ。
トーナメントに再挑戦するには次の新人王トーナメントまでにC級で4勝以上していなければOK。
もし4勝以上していると出場選手たちの中で経験による実力差ができてきてしまう。
そしてC級で4勝以上するとB級へ昇格することができるようになるからだ。
あくまでも新人王トーナメントはC級ライセンス保持者のための大会であるということだ。

4戦2勝2敗という中途半端な戦績を背負いながらも再び新人王トーナメントへと人生逆転への階段を登ってゆくのだという夢と希望を胸にトレーニングと仕事に力を注ぐ日々が始まったのだった。

続く。

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