その 8はこちら
マイク・タイソンの試合を観ていた。
結果は1ラウンドKO勝ち。
相手は誰だったか覚えていない。
試合内容は1ラウンドから相手がビビることなく攻撃を仕掛けていく展開だった。
そんな中マイク・タイソンの放った右ストレートが相手のおでこより少し上頭頂部に近いところに当たった瞬間相手がそのまま前のめりにダウン。
その後ふらつきながらも立ち上がり試合は再開したがマイク・タイソンの追撃で再び相手がダウン。
立ち上がったもののふらついていたためレフェリーが試合をストップ。
この試合の記憶がとても鮮明に頭に残っており試合中 しつこく頭を下げて突進してくる相手に対してブチ切れた私はその頭へ向かって右ストレート振り下ろしたのだった。
その瞬間に右手には激痛が走った。
WOWOWで観たマイク・タイソンの試合のようにはいかず相手は倒れることなくさらに突進してきて腹をペタペタと打ってきた。
ここで過去の忌々しい記憶が蘇る。
「右拳をまた痛めてしまった!こんなにしつこい相手に対して右拳が使えないんじゃあ勝つのは難しいのではないか?」
そんな弱気な気持ちが頭をよぎった。
しかしそんな弱気を払拭するのもものすごい速さであった。
「何を考えてるんだ!あの悔しさをまた味わいたいのか!右拳が使えなくても左拳があるじゃないか!何なら拳が砕けても右を打て!最後まで戦え!勝て!」
この葛藤は恐らく1秒未満の間に頭の中で繰り広げられた。
そこからは相手の突進を受け止め真っ向から打ち合う展開が続いた。
そしてついに6ラウンド全てが終了。
勝敗はジャッジに委ねられた。
「勝者!鈴木!」のコールが聞こえた瞬間も拳の激痛と慣れないファイトスタイルで戦い抜いた疲れで意識が朦朧としていたため全力で喜ぶことができなかったような気がする。
それでも右拳を痛めながらも戦い抜き全日本新人王のタイトルを手に入れたのだ。
過去に拳を痛めて試合を投げ出しリングから逃げた自分に対する怒りと二度と同じ過ちを繰り返さないという決意がこの結果を導いたと感じている。
その経験があったからこそ今の自分があるのだと強く実感した瞬間であった。
このストーリーを描きたかったからわざわざプロ2戦目の話を書きました・・・
数日後依然右拳は腫れ上がりものすごく痛かったので病院に行き診察を受けるとなんと骨折していたという。
そりゃあ痛いわけだ。
リング上では勝利の喜びをすぐには味わえなかったがだいたい勝っても負けても数日後にその時の感情は押し寄せてくるものだ。
試合中に拳を骨折してもそれでも戦い抜いて勝利し全日本新人王のタイトルを手に入れた。
だからその喜びはひとしおだった。
さらに過去に逃げた自分を乗り越えられたという意味でもより嬉しい結果になった。
自分が成長したことを強く感じられる瞬間だった。
そんな激闘の1年間を無事に勝利で締めくくり自分の成長も感じられた。
そして年末を迎えた頃には「来年もこの調子で頑張るぞ!」という意気込みが強まっていた。
しかし多少は成長したとはいえまだまだ過去に逃げ続けていたツケは溜まっていたのかなかなか良い波に乗れずまだまだ試練が降り注いでくるのがこの「ダメ男」なのである。
続く
コメント