自己紹介 その3

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プロテストのスパーリングまさに緊張の瞬間。
あの日のことは今でも鮮明に思い出せる。
私たちは同じジムで同じ時間帯にトレーニングをする仲で何度もスパーリングを行なってきた。
お互いの手の内を知り尽くしているがいつもと違うシチュエーションでのスパーリングとなるとさすがに緊張する。
テストだと言って全力で行ってしまって相手の人が落ちてしまったらどうしよう…などといろいろと考えているうちにゴングが鳴りスパーリングが始まってしまった。

気持ちとしては「これはテストなんだから全力でいくぞ!」と自分に言い聞かせつつも「相手がダウンしてしまったらどうしよう…」などとちょっとした心配などもしていた。

すると記憶は曖昧だが2ラウンドが始まったあたりだったと思う。
ジャッジをしている試験官から突然のストップがかかった。
何事かと思って振り向くと試験官がこう言った。
「お前ら同門だからって手を抜いてるんじゃないだろうな。マスボクシングやってるんじゃないんだよ。もっとちゃんとスパーリングしろ!」
私は思わず「えっ!?私たちマスボクシングじゃなくてちゃんとスパーリングをしてますけど…」と言い返したい衝動に駆られたが心の中の別の自分が「それはやめておけ」と囁く。
どうしたものかと悩んでいると目に飛び込んできたのは後楽園ホール南側のスタンド席に座っている会長の姿だった。

会長も試験官のダメ出しに慌てたのか大きく手を振りながら私に「攻めろ!」のジェスチャーをしている。
私が南側を見ているということは相手は私と向き合っていて北側を見ているわけで当然その人には会長のジェスチャーは見えていない。
両方とも不合格になるくらいならどちらか一人でも受かればいいという考えだったのではないかと思う。
逆の立ち位置だったらどうなっていたのだろうか…
私も絶対に落ちたくないという一心で再開されると同時に攻撃の手数を増やしていった。
相手をロープ際まで押し込み数発パンチを打ち込んだ。
その時ふと「このままではダウンになってしまうのではないか…?」という思いが脳裏をよぎり思わず手を緩めてしまった。
その瞬間相手が見事なワンツーを返してきて私は被弾。
その時とてもいい「見せ場」を作れたのではないかと私は思った。

そんな感じであっという間に2ラウンドのスパーリングは終わってしまった。
試験の結果がどうなるのか不安の募る中時間は過ぎていった。
どのくらいの時間が経ったのか正確には覚えていないがついにプロテストの結果が報告された。

ジムの練習生の中で受けたのは3人、合格者は2人、不合格が1人という結果だった。
驚いたことに合格者は私と私とスパーリングをした相手だった。
「何かすごくうまいことやったな」と心の中ですごく嬉しかったのを覚えている。
逆にそんな感じでも合格できたのに不合格になるってどれだけダメだったのだろうかとそっちの方が気になった。

こうして晴れてプロボクサーとなりいよいよ社会という手強い相手と戦う底辺の男にさらに約1メートルほどの高みに登り闘い勝ち続けることで底辺から這い上がるチャンスを掴むことのできる「リング」という舞台が追加された。

続く

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