その3はこちら
プロテストを無事に合格しいよいよデビュー戦に向けたトレーニングの日々が始まった。
ライセンスが発行され手元に届いたその瞬間私はそのカードを見つめながらニヤニヤしていたのを思い出す。
「これでついにプロボクサーとしてリングに立てるんだ!」という期待と希望が溢れ出ていた。
プロテストからどのくらいの日時が経ったのかは覚えていないが遂にデビュー戦が決まった。
相手はプロ戦績1戦1勝の選手。
私はデビュー戦というのは初めて試合をする者同士が行うものだと勝手に思っていて1戦してるのか?と驚きちょっとした不公平感を抱えつつも「まあ試合が決まったのだから仕方がない」と腹をくくった。
デビュー戦に向けて私は体と心を整えながらトレーニングに励んだ。
そしていよいよ試合当日。
その日はもちろん緊張していたが体が動かなくなるというほどではなかった。
私はアマチュア経験がまったくなくいきなり3分×4ラウンドというプロ仕様の試合からのスタート。
プロボクサーのデビュー戦はだいたいの人はここから始まるもんだ。
そしていよいよ運命のゴングが鳴った。
試合が始まり1分程度で私がダウンを奪った。
今までスパーリングでパンチが当たったとしても倒れるという事はなかったので初めてのダウンに「これがダウンというものか」と喜びと驚きを感じた。
しかしそこで決着がつくかと思いきや相手は立ち上がってきた。
立ち上がってきたことに驚きながらも試合は続行。
ダウンを奪ったのだから相手にはダメージがあると思いさらに追撃を試みるもなんと相手が逆にものすごい手数で前に出てきて私はパンチを被弾。
まさかの逆転で今度は私がダウンをしてしまった。
これもまた初めての経験で脳震盪を起こしながら「ダウンをするというのはこういうものなのか」とちょっとした恐怖を感じたのを覚えている。
「これがボクシングの醍醐味だ」と言いたいところだがその時はとにかく立ち上がらなければならないと少し慌てていた。
悔しさと「絶対に勝つ」という一心で再び立ち上がり試合は続行された。
そこからは未熟者プロボクサー同士による決め手のない戦いが繰り広げられ4ラウンド全てが終了。
勝敗はジャッジの判定に委ねられることになった。
ドキドキしながら結果発表を待っていると
「勝者赤コーナー鈴木」のコール。
辛くも私は勝利を掴むことができた。
終わった後試合を振り返ってみようと思ったが何も思い出せない。
実は1ラウンドの終わりから試合終了までの記憶が一切なかったのだ。
「あれ?試合は終わったのか?それとも夢の中だったのか?俺試合した?」と思ったほどだった。
後に経験を積んでたくさんの試合に関わってきたがこれはKO負けをしたボクサーが控え室に帰ってきてよく言うセリフだった。
どうやら脳震盪による一時的な記憶障害が発生していたようだ。
その後試合を見返してみると自分では全く覚えていないが普通にボクシングをしており3ラウンド目には再びダウンを奪っていた。
どうやら私の潜在意識が頑張ってくれていたようだ。
そんな形でデビュー戦を無事に勝利で終え私は人生を逆転させるための階段の1段目にやっと足をかけたのであった。
続く
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